次元定理の証明とその応用
次元定理は線形代数の講義でほぼ必ず扱われますが,今回はその面白い応用を見つけたのでメモしておきます.
次元定理
証明
$S\cap T$の基底を ${a_1,\ldots,a_k}$ とする.この基底を拡大して$S$の基底 ${a_1,\ldots,a_k,b_1,\ldots,b_l}$ , $T$の基底 ${a_1,\ldots,a_k,c_1,\ldots,c_m}$ を作る. ${a_1,\ldots,a_k,b_1,\ldots,b_l,c_1,\ldots,c_m}$ が $S+T$ の基底であることを示す. これが $S+T$ を張ることは明らかなので,線形独立性を示せばよい.${a_1,\ldots,a_k,b_1,\ldots,b_l,c_1,\ldots,c_m}$ の線形方程式
\[\sum_{i=1}^k \alpha_ia_i+\sum_{i=1}^l \beta_ib_i+\sum_{i=1}^m \gamma_ic_i=0\]を考える.
\[d=\sum_{i=1}^k \alpha_ia_i+\sum_{i=1}^l \beta_ib_i=-\sum_{i=1}^m \gamma_ic_i\]とおくと,$d$は$S$の基底の線形結合である.$c_1,\ldots,c_m$は$S$に含まれない元であるので,$d$は$S$に含まれないベクトルたちの線形結合でもある.$d=0$となる.${a_1,\ldots,a_k,b_1,\ldots,b_l}$ は $S$ の基底なので $\alpha_1=\cdots=\alpha_k=\beta_1=\cdots=\beta_l=0$.${c_1,\ldots,c_m}$ は基底の一部であり線形独立なので,$\gamma_1=\cdots=\gamma_m=0$.よって ${a_1,\ldots,a_k,b_1,\ldots,b_l,c_1,\ldots,c_m}$ の線形方程式は自明な解のみをもち,これらは線形独立.
次元定理の応用
以下の定理では次元定理が証明で肝心な役割を果たします.証明は順次気が向いたら書きます.
$\mathrm{Ker}$ と $\mathrm{Im}$ の関係
証明
次元定理の式で$S=\mathrm{Ker}(A),T=\mathbb{R}^n/\mathrm{Ker}(A)\cup\{0\}$ と置くと,これは $\mathbb{R}^n$ の線型部分空間となっている. $\dim(S\cap T)=0,\dim(S+T)=n$.$\mathbb{R}^n=S+T$より $\dim(\mathrm{Im}(A))=\dim(A\mathbb{R}^n)=\dim(A(S+T))=\dim(AS+AT)=\dim(AT)$($\because$ $S$は零空間).ここで $A$ の定義域を $T$ に制限した写像 $A^\prime : T \to\mathbb{R}^m$を考えると, $\mathrm{Ker}(A^\prime)={0}$.よって$A^\prime$は単射であり,$\dim(\mathrm{Im}A^\prime)=\mathrm{dim}(T)$.$\mathrm{dim(\mathrm{Im} A)}=\mathrm{dim(\mathrm{Im} A^\prime)}$ であるから示された.